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太宰治の魅力とはなんなのか

なんなのか、と言っておきながら私なりの最初の答えとしては下記の通りである。

退廃への憧憬。

これを、太宰治は実現しているからこそと思われる。

退廃といっても、回りがあくせく働いているのを尻目に自分は酒に入り浸り、どこからか金をくすねてきては、怠惰な生活を繰り返す。そうでありながら、「ほら、あの人は小説家だから」仕方がないのよ、と、自分は回りとは違うんですのよ、と説得されてしまうこの流れ、この流れを実現していると思われるのであるのが、太宰治の魅力たる所以であるが、この印象が定着したのはおそらく太宰治の死後である。

太宰はイタい子

そんな太宰の実際の生き様はどうだったのかを振り返りつつ、どうして太宰は魅力的なのかをひも解いていこうというのが今回の本の趣旨であったのだが、太宰の野郎、読めば読むほどダメンズである。

太宰治の作り方 (角川選書)

太宰治の作り方 (角川選書)

心中事件は小説家のスパイスではあるが実際のところは死ぬ死ぬ詐欺

太宰治といえば、数度の自殺・心中事件が有名であり、彼を繊細な、生きづらい、気難しいといった風情の人間であると見せかけている。

まぁ実際私もそんな感じだった。んだけど、ことの自殺の仔細を見ると、「あ、こいつダメだ」としか言わざるを得ない。

というのも、彼の自殺・心中をした理由は心の漠然とした不安でもなんでもなく、そのほとんどがのっぴきならない現実からの逃避であったからだ。

最初の自殺は大学の時であったが、これは大学の卒業試験から免れるためのものと思われている。実際これにより卒業試験は罷免されたようであった。どうやらこれで味をしめたらしい。次の自殺は就職活動の失敗によるものである。失敗といっても、そもそも太宰はほとんど就職活動などやっていないらしく、つまるところはカモフラージュで「就職ができず、その情けない身の上のため苦にして心中云々」という風に見えさえすれば実家に恰好がついたのではないかと思われる。

困ったら自殺――今でいえばリストカットの最上級デモンストレーションを太宰は行っていたといえよう。

作者の言う太宰の魅力とは

太宰の魅力とは一重に共感力であるという。共感力といってもこれまた自己陶酔型の共感力で、なまじ自分の体験が色濃く反映されている太宰の小説は、「俺が太宰のことを一番理解している」といった風な感覚に陥らせるのがうまいと言う。

しかしこの言いっぷりを見てると、なに、なんなのかしら「太宰を分かってあげられるのは俺だけだ」と各個人に対してそんな風に思わしめるところの魔性のオンナっぷりというか。

なんつーか、キャバクラやホストクラブに通うような中毒性のある人の匂いがプンプンする。恐ろしくも全員に対して1:1の関係性で発露できる様がもう目もあてられない。ひとりよがりにハマりこみ、ひとりよがりに騙され、ひとりよがりに絶望していくのだろうかと思うと、やはり太宰という男は魅力的な人間なのだと思う。

この魅力はどちらかというと、果物の腐る一歩手前のなんとも言えない匂いを醸し出すような、そっちらへんの魅力である。

いずれにせよ、太宰を認識した後、無視することは難しい。小説という彼の残り香でさえ、魅力的に映るのだ。なおのこと、彼と実際に会っていた人達は難しかろう。太宰は、よかれあしかれ人の気持ちを逆なでる。面白い人間でもあったし、けれども体たらくや金の無心やらで憤りや怒りを感じる人もいただろう。

なぜ太宰以上に魅力的にならないのか

太宰の死後随分立つが、彼より退廃的でありながら小説家という魅力を存分に発揮する人はいない。

それもそのはずである。

彼ほど自分自身を見切りして、いじきたなく、ずるがしこく、欲にまみれている。そうであればあるほど、彼の小説の一遍はきらびやかに光り輝く。あがけばあがくほどますます光り輝き、最期にはその光に自分自身が飲み込まれてしまったのであろう。

泥のような男から珠玉の小説が生まれた。それは確かであり、珠玉を産み落とした時、男もまた珠玉そのものであったのだろう。しかしそれは一刹那であり、再びその珠玉を手にしよう手にしようと言ったところで再現性は難しく、かえってそれが、小説家の苦悩を体現することとなったであろう。

しかしその、あがきもがき続けながらも、新たな珠玉へと手を伸ばそうとする、自分はできるはずだと渇望し無様ななりを見せる欲にまみれた一途で執着する様が、私たちを魅了するのであろうか。

もしかすると、太宰のようにロクでもない人生を送っている人はいるかもしれない。太宰と同じような小説を書ける人もいるかもしれない。けれども、太宰のようにロクでもない人生を送り、それを尚且つ小説として作った人間は、いないのである。

恥の多い生涯を送って来ました。

引用 「人間失格

 

誇大なまでのナルシズムを体現した男という意味で彼は偉大である。

 

シュレーディンガーの猫の太宰

誇大なまでのナルシズムを体現した男ーーとまとめれば太宰格好いいかも!と思うかもしれないが、実際のところは不確定要素が多くて、視点が定まらずにそれを定めようといろいろこっちが活動しなくちゃいけない結果なんであると私は思っている。

シュレーディンガーの猫宜しく、太宰の太宰たる情報の不安定さがそうさせているのである。小説の数々にある彼の現実とのエピソードが小説の彼と現実の彼とを交互に見定めようとする。しかし実際ははたしてどうなのかは、今となっては答えはない。

そう考えると、彼が偉大な状態で終わったのは、答えを与えずしてこの世を去った所であるが、きっと本人ですら答えなどなかったに違いない。

芥川賞がほしいといって駄々をこねた太宰、その昔のノートが黒歴史の太宰、それでもみんな、太宰が大好き、人が誰しも持ち合わせる恥を持ちつつ、ミステリアスな部分をなくさなかった――きっと後世にも語り継がれるだろう。

 

教訓。ミステリアスな人間は胡散臭いものと思え。

初出:2015/12